モラルハラスメントとは、「言葉や態度、身ぶりや文書などによって、相手の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせること」です。
フランスの精神科医であるマリー=フランス・イリゴイエンヌ(Marie-France Hirigoyen)が提唱した概念で、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待、ハラスメントやいじめ等でみられる問題です。
モラルハラスメントでは巧妙にコントロール下においた後、
①直接的なコミュニケーションを拒否する
②会話を歪める
③相手が誤解するように仕向ける
④相手を軽蔑・嘲笑する
⑤言っていることと矛盾する態度をとる
⑥相手を認めない態度をとる
⑦不安の種を播く
⑧権力を濫用する
といったコミュニケーションを通して被害者の心身を継続的に傷つけます。なお、加害者や被害者に性別は関係なく、男女ともに加害者と被害者がみられます。
被害者は離れることも身を守ることもできないようなコミュニケーション下に置かれるため、長期にわたってモラルハラスメントを受け続けることは珍しくありません。
また、モラルハラスメントは攻撃と同時に攻撃の隠蔽が行われます。そのため、周囲に相談しても理解されずに二次被害を受けることが多く、被害者自身もモラルハラスメントを受けていたことに後々気づくということさえあります。
その影響は非常に大きく、加害者から離れた後もトラウマとして残り、長期にわたって被害者の心身と生活を脅かすため、精神的な殺人とも呼ばれています。
モラルハラスメントの被害を受けると、不安の恒常化に伴うストレスによる身体化症状、慢性疾患、PTSD様症状、抑うつ状態、罪悪感、アイデンティティ感覚の崩壊、他者への信頼の欠如などがみられるようになります。
PTSDはDSM-5のA基準「実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への1つ以上の暴露(※ICDの場合は「極度に脅威的なあるいは恐怖となる出来事」)」を満たさないと診断がつけられませんが、臨床上は身体的暴力・性的暴力を伴わないモラルハラスメントでもPTSDの3症状(侵入症状、回避/麻痺症状、過覚醒症状)がみられるようになります。
そして、加害者からの情報操作によって所属しているコミュニティから誤解を受けて孤立し、ますます状態が悪化する場合も多々あります。
モラルハラスメント被害を受けられた方へのカウンセリングでは、モラルハラスメント被害のトラウマのケアはもちろんのこと、現在進行形のモラルハラスメントから身を守ることや今後類似した被害に遭わないためのスキル獲得やケアも重要となります。
【参考文献】
Marie-France Hirigoyen (1999). モラルハラスメント -人を傷つけずにはいられない. 紀伊国屋書店
更新日:2021年4月8日
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